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On the Illustrations of "Le Livre du Coeur d'Amour epris" : the Function of the Illustrations

Authors
Publisher
千葉大学文学部
Keywords
  • Ndc:723.35
  • Ndc:726.501

Abstract

þÿ 『愛に囚われし心の書』の挿絵について ――挿絵の果たす役割―― 田 中 久美子 は じ め に 現在、ウィーンのオーストリア国立図書館に所蔵されている『愛に囚われ し心の書』(Le Livre du Coeur d’Amours e´pris、Cod.2597)の挿絵は、15 世紀フランス絵画を代表する作品であるばかりでなく、西欧の写本芸術にお いて最後の頂点に位置するものである。この『愛に囚われし心の書』は、フ ランスにおいて芸術活動の中心地のひとつであったアンジュー公ルネの宮廷 でルネ王自身によって1457年に著され、ブルボン二世に献呈されたものだ が、原本はすでに失われており、ウィーン国立図書館に所蔵されている写本 は、この原本をもとにして1460年代に制作されたものである。 『愛に囚われし心の書』は、抽象的概念が擬人化されて物語を展開する寓 意物語である。寓意物語は、『薔薇物語』によって完成されて以来、中世の 文学において支配的な様式であった。ここでは、「愛」に憑かれた「心」が 「欲望」を従者に連れ、「恥」と「恐怖」、「拒絶」によって囚われの身となっ た意中の女ドゥース・メルシを救出するために波瀾万丈の旅に出る。「心」 たち一行は、囚われのドゥース・メルシに近づきながらも闘いに敗れ、傷つ いて愛の病院に身を潜めるところで夢からさめるという筋立てである。 本稿で扱うウィーン版の『愛に囚われし心の書』には16点の挿絵が施さ れている(註1)。そこにみられる空間の見事な処理、直接の観察に基づく 自然の描写、とりわけ、闇の中の灯火や曙光、夕暮れや闇の表現など光の変 化に対する繊細な感受性が注目され、イタリア、フランドルの影響を消化し たうえで南仏の強い光を表現する独自な様式をうちたてたものと高く評価さ れている。この『愛に囚われし心の書』の挿絵を制作した画家については記 201 録が一切残されていないために、多くの研究者たちの関心はもっぱら、当写 本を手がけた画家の割り出しに向けられてきた。挿絵の様式分析が行われ、 さまざまな画家の名が取りざたされてきたが、そこにみられる強い北方的な 様式から、現在は北方出身のバーテルミー・デック説が最も有力である。 本稿では、画家の帰属の問題からは少し角度を変えて、テクストと挿絵の 関係という観点から当写本を考察するつもりである(註2)。そのためには 挿絵を本来それが属している「本」という場に戻して考察しなければならな い。というのも、そもそも「本」とは、テクストや絵画などの諸構成要素か ら成り立つ有機的組織体だからである。書物の中で第一義的な役割を担うの は、意味作用を帯びたテクストであることは言うまでもない。他方、挿絵 は、意味作用しか持ち得ぬテクストとは異質な形象性と空間性を有してお り、独自の役割があるはずである。テクストと挿絵が二人三脚でそれぞれの 役割を果たしてこそ、「本」という有機的組織体は形成される。ここでは、 挿絵がどのようにテクストとかかわっているのか、「本」の一構成要素とし てどのような役割を演じているのかを考えてみたい。 挿絵の役割 当写本を飾る16枚の挿絵が施されている箇所と主題は以下のとおりであ る。 1.Fol.2r、 王の夢 2.Fol.5v、「希望」との出会い 3.Fol.9r、「嫉妬」との出会い 4.Fol.12v、「長き待ちこがれし森」での雨後 5.Fol.15r、「運命の泉」の碑文を読む「心」 6.Fol.17r、「深き思慮の谷」での「憂鬱」との出会い 7.Fol.18v、「危険な渡り橋」での「心配」との出会い 8.Fol.21v、「心」と「心配」の戦闘直後 9.Fol.25v、「落胆の丘」で「怒り」の館へ 10.Fol.26v、「心」と「怒り」の戦闘 千葉大学 人文研究 第36号 202 11.Fol.31v、「慎ましき懇願」との出会い 12.Fol.33r、「名誉」との出合い 13.Fol.46v、「悲しき溜息」の庵への到着 14.Fol.47v、隠者の館への到着 15.Fol.51v、「愛の島」への舟出 16.Fol.55r、岩礁での「社交」と「友情」との出会い この16枚の挿絵のタイプを分類してみると、扉絵としての役割を果たす 冒頭挿絵の《王の夢》は別として、他の15枚は、単独のタイプ(fol.5v,9r, 17r,46v,47v)と2枚が対となっているタイプ(fol.12vと15r、18vと21v、 25vと26v、

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