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寺出道雄著 資本蓄積論 : 歴史の中の経済

Authors
Publisher
慶應義塾経済学会
Publication Date

Abstract

寺出道雄著『資本蓄積論―歴史の中の経済』 「三田学会雑誌」90卷 4 号 (1998年 1 月) 趣^ ^ 寺 出 道 雄 著 『資本蓄積論 —— 歴史の中の経済』 慶應義塾大学出版会,1997年 1 月,iv + 180頁 目 次 1 . マルクス経済学者と近代経済学者の双方が, 対立どころか,お互いの研究を無視しつつ研究を 進めるという時代があった。いや,旧ソビエト連 邦や東欧の諸国がその政治体制を大きく変えてし まい,マルクス主義経済学に対する信頼が揺らい だ現在においても,そうした状況は続いているの かもしれない。分析対象が同じでありながら,ニ つの研究者集団の知的資源が,ほとんど交流する ことのない状態は,互いに鎖国政策をとる二つの 国を連想させる。 もちろん,鎖国政策のとられた江戸時代に細々 であっても,オランダとの交易によって西洋との 接触があったように,マルクス経済学と近代経済 学の橋渡しを行なう経済学者も存在する。置塩信 雄氏はそうした経済学者の代表格といえる。ここ での書評の対象となる本,『資本蓄積論一歴史の 中の経済』の著者,寺出道雄氏も結果的に双方の 交流を行なう者として評価される。 寺出氏は,資本主義の発展の歴史についての自 らの疑問の解明に役立つものは,マルクス経済学 であろうと近代経済学であろうと,なんの躊躇も なく採り上げようという態度で研究を進めている ように見える。そうした,二つの学派の間を軽や かに往復する寺出氏の研究スタイルに,顔をしか める者もいるかもしれないが,評者は寺出氏の魅 力であると積極的に評価したい。 2 . 『資本蓄積論一歴史の中の経済』は,寺出氏 によれば「資本主義の発展の歴史に沿った形で, 資本の蓄積の進展について,できるだけ簡明に説 明し,描写していく」ことを主題としている。た だし,寺出氏の資本概念はマルクス経済学のそれ であったり,近代経済学のそれであったり,かな り自由,広範なものであることに注意する必要が ある。各章がそれぞれ資本蓄積に関連する議論を 含むとはいえ,章ごとの連関を欠くきらいがある のは,そうした資本概念の広範性と,寺出氏がこ れまで発表した論文を著書の形でまとめるべく再 構成したという事情によるのかもしれない。 以下,本書の構成を概観する。序章において, 寺出氏はリ力一ドの資本蓄積論をカルドアやパシ ネッティが再構成した枠組みで示すことで,資本 蓄積や剰余•利潤 •賃金などの基本的諸関係を明 確にしようとする。その後, I部とII部に分けて, やや異なる観点から資本蓄積を考える。 I部の 1 章から4 章では,近代資本主義のもと で の 資本蓄積がどのように行われるかという,あ る意味では正統的な問題が取り上げられる。より 具体的には,第 1 章では,資本蓄積が順調に進行 する条件を扱う。第 2 章は,技術進歩の問題を, 資本蓄積の長期的傾向との関連で考える。さらに 19世紀中葉から後半にかけてのイギリスにおいて 歴史的動向を検証する。第 3 章は,資本蓄積過程 において,景気循環がどのような要因で生じたの かを扱う。第 4 章では,イギリスにおける資本蓄 積の様相の変化が取り上げられる 第II部, 5 章から最終9 章では,資本蓄積の進 展に対応した資本主義の歴史的発展の中での,社 会の様相の変化が描かれる。そこでは近代資本主 義に限らず広義の資本蓄積過程が問題とされる。 寺出氏によれば,「資本•賃労働関係そのものの形 成過程は,資本の本源的蓄積過程と呼ばれる。(中 略)資本の本源的蓄積過程によって近代資本主義 が生まれたときに,初めて,資本は道具や機械や 原料,ひとことでいえば,生産された生産手段の 姿をもとることになる」(本文5 ページ)という。 244 (938) いくつかの時代や地域を念頭において,経済理論 による「資本の本源的蓄積過程を主題とする,歴 史物語」が紡がれるのが第II部であるとまとめる こともできよう。 具体的には,第 5 章で,資本の本源的蓄積過程 のもとでの,農村の共同体的関係の解体と,資本- 賃労働関係の形成,第 6 章で,資本の本源的蓄積 過程における,共同体的所有関係の解体と,私的 所有の形成が扱われる。第 7 章ではアジアの前近 代社会における東洋的専制国家の構造と,欧米の 資本主義の進出によるその変化が,帝政中国を念 頭におきながら描写される。第 8 章ではイギリス における産業革命にともなう労働者階級の状態の 変化が,第 9 章では第一次世界大戦時のおける労

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