18世紀イギリス東インド会社貨幣政策史論 : 貨幣問題とベンガル経済
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Abstract
氏名(生年月日) ( ) 氏 名 谷口 謙次 学 位 の 種 類 博士(経済学) 学 位 記 番 号 第 5829号 学位授与年月日 平成 24年 9月 25 日 学位授与の要件 学位規則第 4条第 2項該当者 学 位 論 文 名 18世紀イギリス東インド会社貨幣政策史論 ―貨幣問題とベンガル経済― 論文審査委員 主 査 教授 脇村 孝平 副 査 教授 大島 真理夫 副 査 教授 海老塚 明 論 文 内 容 の 要 旨 本論文では、18 世紀南アジアおよびベンガルが社会経済的に発展していたという議論に基づき、 ベンガルの貨幣構造とイギリス東インド会社(以下 EIC と略記する)による植民地化を、EIC の貨 幣政策の分析を通して論じた。 ここでは二つの論点を提示したが、その第一は、ベンガルで見られた貨幣の多様性は経済的後進性 の現れではなく、合理的な意味付けがあることである。世界の他地域と比較して、ベンガルの市場構 造は貨幣構造と密接な関係を持っていたことが明らかとなった。第二は、プラッシーの戦い以後ベン ガルの植民地が急速に進み、EIC が植民地政府としての権力を確立したという議論を批判した。EIC の権力形成はゆっくりとしたものであり、ベンガル経済は粘り強さ(resilience)を持ち続けていた ことを明らかにした。 これらの論点を議論するために、まず、二つの貨幣問題の再検討を行った。18 世紀半ばのベンガ ルで EIC は貨幣の多様性と銀不足問題という問題に直面していた。貨幣の多様性とは、ベンガルで 流通する銀貨が多様で不都合が生じていることを指し、銀不足問題とは、プラッシーの戦い以降、 EIC によるベンガルへの銀輸出が停止したことによる経済停滞のことを指した。 第一に、貨幣の多様性の要因には、制度的要因と社会経済的要因が存在した。制度的要因とは、ム ガル帝国が貴金属供給を外部に依存しているために、貨幣制度を管理できないことである。他方、社 会経済的要因とは、銀の大量流入と貨幣経済化によって重層化・環節化した市場構造であった。それ は「地域内取引」と「地域間取引」の異なる二つの市場取引が行われる形態であり、経済力の高い地 域と低い地域が共存するための合理的なものであった。 第二に、銀不足問題には詳細な数量データの有無、銀におけるストックとフローの相違、ベンガル 経済の銀ストックとベンガル政府のそれとの相違、という三つの課題が存在した。数量データに関し ては、ボーエンによって EIC による銀輸入停止は明らかになったが、他の経済主体が分析されてい ないため、デフレーションが生じていたとは結論付けられないとした。ベンガルの銀ストック問題に ついては未だ十分な議論がなされていない。EIC の銀ストックについては、銀輸出が再開された時 期ですら EIC は銀不足に陥っていたが、それは南インドでの戦争と南アジア産品購入額の高止まり という EIC 財政の問題であった。 次に、EIC の権力形成について 18 世紀後半の貨幣政策の分析を行った。第一に、1760 年代から 1770 年代までの貨幣政策について考察した。1760 年代には銀不足問題対策として金貨制導入が、 1770 年代には貨幣の多様性対策として銀貨統一政策が行われたが、これらの背後には、EIC 内部の 対立が存在していた。ベンガル政府は経済停滞是正を志向して金貨制導入を進め、取締役会は経済シ ステムの合理化を望んで銀貨政策を後押しした。しかし、いずれの政策もベンガル経済への無理解と 権力の未成熟により失敗した。 第二に、鋳造所改革を軸に、18 世紀末の貨幣政策を論じた。EIC は鋳造所を両替商への請負制か ら直接経営に転換することで、貨幣制度に影響力を及ぼせるようになった。その結果、新たな貨幣制 度が導入され、貨幣政策は柔軟性と融通性を有して実効性を増すことになった。つまり、EIC はそ の貨幣制度を理解して改革し、明確な権力と権威を確立し始めたと考えられよう。 以上の点から、独特な貨幣構造を持つベンガル経済は 18 世紀後半以降も粘り強さを持ち続け、植 民地化はゆっくりと進行していった。EIC は内部対立を打破し、ベンガル経済の性格を理解して、 権力を形成するのに多くの時間を費やしたのであった。 論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨 本論文は、この数十年、徐々に浸透するようになってきた「18 世紀再検討論」(18 世紀のインド は、ムガル帝国の衰退・解体によって経済も停滞したとす
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